複素関数らしさは微分に伝播する?
1。複素関数は微分できるとは限らない
このワークシートはMath by Codeの一部です。
実数の世界では、y=f(x)の微分はグラフのx=aからbまでの微小変化に対するyの微小変化⊿y/⊿x平均変化率をx=bをx=aに近づけることで(a, f(a))での傾き、微分係数f'(a)を求める、
それをx=aに限らずx全体で実行したときのxの関数、導関数f'(x)を求めことだったね。
複素数の世界ではw=f(z)の微分はzの微小変化に対するwの微小変化⊿w/⊿zをz=bをz=aに近づけることで、極限値、微分係数f'(a)を求める。
それを全体化して導関数f'(x)を求めることだ。大きな決まりは同じだ。
しかし、大きなちがいがある。
z=bをz=aに近づけるときの経路が一本道ではないことだ。
無数の近づき方があるので、微分できる保証はない。
近づき方によっては、極限値が別になってしまうかもしれないからだ。
また、平均変化率は⊿w/⊿zだから、平面での点移動複素数の商だから、
傾きというイメージにはならない。
⊿wも⊿zも複素数だから、大きさと偏角がある。
そして、その商は回転拡大になっている。だから、傾きというよりは平面をひねってのばず変形度という感じになる。
そこのところをくわしく見ていこう。
<領域Dで正則>
zの関数f(z)が定義域の点z=aで経路にかかわりなく、極限 が存在するときに
w=f(a)はz=aで微分可能といい、極限値を微分係数といい、f'(a)とかく。微分係数があれば、z=aで連続だというのは実関数と同じ。
領域Dのすべての点で微分可能なときに、fは領域Dで正則な関数だという。
Dの各点zの微分係数f'(z)をfの導関数という。
・微分演算と和差積商についは、実関数と同じ法則が成り立つ。
(f±g)'=f’±g'、(fg)'=f'g+fg', (f/g)'=(f'g-fg')/g2
(例)
w=z2は微分可能。⊿z→0とするとき、
⊿w/⊿z={(z+⊿z)2-z2}/⊿z=2z + ⊿z→ 2z
zが1+i付近ではwは(1+i)2=2iに近づくね。近づき方がちがうと、近づいた経路の曲線のz=1+i付近での
接線の傾き⊿y/⊿xは異なるね。
しかし、z=1+iの微分係数は2(1+i)だから、近づき方によらず同じ2+2iくらいになるはずだ。
くわしくみてみよう。
aを0から0.1に増やすとき、
・x軸と平行な点z=1+a+iなら、⊿y/⊿x=0で、
⊿w/⊿z={(1.1+i)2-(1+i)2}/0.1=2.1+2i ≒ 2+2 i
・y軸と平行な点z=1+i (1+a) なら、⊿y/⊿x=無限大で、
⊿w/⊿z={(1+ 1.1 i)2-(1+i )2}/(0.1 i) = 2 +2.1i ≒ 2+2 i
・点z=1+a+i(1+ a)なら、⊿y/⊿x=1で、
⊿w/⊿z={(1.1+1.1i)2-(1+i)2}/(0.1+0.1i)= 0.42i//(0.1+0.1i)= 4.2i/(1+i)=2.1+2.1i ≒ 2+2 i
このように、z平面での近づく傾き⊿y/⊿x=0を変えても、平面間の増分比、微分係数⊿w/⊿zは一定だ。
1+iは複素数としては45度の左回転だから、z平面のz=1+iの付近の動きがwで45度左回転して2倍した
動きになるということだね。
一般化すると、z平面の各点zの付近の動きがw=f(z)=z2によって、w平面では点はz2に移り、動きは2zになるということだ。
(例)
w=znは微分可能。⊿z→0とするとき、
⊿w/⊿z={(z+⊿z)n-zn}/⊿z=nC1zn-1+nC2zn-2⊿z+.......→ nzn-1
(例)
w=2x+y i は微分不可能。
⊿w/⊿z={2(x+⊿x)+(y+⊿y)i- (2x+yi)}/(⊿x+⊿yi)=(2⊿x+⊿yi)/(⊿x+⊿yi)
⊿x=0,⊿y→0のとき、⊿w/⊿z=(⊿yi)/(⊿yi)→1
⊿x→0,⊿y=0のとき、⊿w/⊿z=(2⊿x)/(⊿x)→2
くわしくみてみよう。
aを0から0.1に増やすとき、
・x軸と平行な点z=(1+a)+iなら、⊿y/⊿x=0で、 ⊿w/⊿z={2(1.2+i)-(2*1+i)}/0.2=2
u=2xなので、⊿w/⊿z=⊿u/⊿x=2で、z平面の2倍大きく変動する。
・y軸と平行な点z=1+i (1+a) なら、⊿y/⊿x=無限大で、⊿w/⊿z={(1+1.1 i )-(1+1i )/(0.1 i) = 1
v=yなので、⊿w/⊿z=⊿v/⊿y=1で、z平面と同じ割合で変動する。
・点z=1+a+i(1+ a)なら、⊿y/⊿x=1で、
⊿w/⊿z={(2*1.1+1.1i)-(2*1+i)}/(0.1+0.1i)= (2*0.1+0.1i)/(0.1+0.1i)= (2+i)/(1+i)=(2+i)(1-i)/2=2-0.5i
u=2x、v=yなので、w平面はz平面よりも横軸だけ2倍大きく変動し、たて軸は同じ割合で変動。
点z=1+i の微分係数の2z=2(1+i)を感じよう。
正則でないから点z=1+i の⊿w/⊿zが変わることを感じよう。
2.C-R-Eでも導関数がだせる。
C-R-Eというのはコーシー・リーマンの方程式の略名だ。
これは領域Dの各点で微分係数が1つになることから導かれる。
つまり、微分可能の目印、導関数の存在条件になっている。正則関数である条件ともいえる。
この等式がすばらしいのは、
存在の保証だけではなく、導関数を計算する道具でもあることだ。
一石二鳥とはこのことだね。
<コーシー・リーマンの方程式を出そう>
・CRE条件は、領域Dのz=x+iy に対して
関数w=f(z)=U(x,y) + i V(x,y) のU,Vが連続な偏導関数を持つとき、
fが正則関数であることは、Ux=Vy and Uy=-Vx
が必要十分。
・このとき、正則関数fの導関数f'はUx+i Vxでも、Vy-iUyでも求められる。
(理由)
⊿y/⊿x=mをいろいろ変えても⊿w/⊿vが同じ定数になる必要がある。
⊿w/⊿v={f(z+⊿z)-f(z)}/⊿v
=[{U(x+⊿x,y+⊿y)+i V(x+⊿x,y+⊿y)}-{U(x,y)+iV(x,y)}]/(⊿x+i ⊿y)
=[{U(x+⊿x,y+⊿y)- U(x,y)}+ i {V(x+⊿x,y+⊿y)-iV(x,y)}]/(⊿x+i ⊿y) (全微分できる)
=[{Ux⊿x+Uy⊿y+εu}+ i {Vx⊿x+Vy⊿y+εv}]/(⊿x+i ⊿y)
→[{Ux+Uy m}+ i {Vx+Vy m}]/(1+i m) (⊿x,⊿y->0ならεu,εv->0,⊿y/⊿x=m )
=[(Uy +i Vy) m+ (Ux+i Vx)]/(i m+1)
一次分数関数がmにかかわらず一定になる必要十分条件は、
(am+b)/(cm+d)のad-bc=0だから、
(Uy +i Vy) 1 - (Ux+i Vx) i = 0より、(Uy+Vx) + i (Vy-Ux) = 0。言い換えると、
Ux=Vy and Uy=-Vx
・どんなmでも⊿w/⊿vは求められるので、m=0とする。
⊿w/⊿v=[(Uy +i Vy) 0+ (Ux+i Vx)]/(i 0+1)=Ux+i Vx
(例)
w=f(z)=z2=(x+iy)2=(x2-y2)+i 2xy
U=(x2-y2), V=2xy
CREから
Ux=2x=Vy,Vx=2y=-Uyだから、fは正則関数で、f'=2x+i 2y=2z。
・正則関数の和差積商も正則関数だ。
(理由)
f、gが正則関数ならば、領域Dの点zでの⊿w/⊿vの極限値、微分係数Cf,Cgが存在するはずだ。
それは各点zごとに定数だから、その和差積商も定数になる。
だから、正則関数の和差積商も正則関数になることがわかるね。
3.正則関数の導関数を求めよう
<べき>
CREをまつまでもなく、(zn)'=nzn-1であることは、上記の1の例から明らかだ。
<指数>
w=f(z)=ez=ex+iy=exeyi=ex(cos y + i sin y)とすると、U=Re(w)=excosy, V=Im(w)=exsiny
積の微分公式から
Ux=(ex)'cosy+ex(cosy)'=excosy -ex 0 = excos y
Vy=(ex)'sin y+ex(siny)'=0 cosy +ex cos y=ex cos y
Vx=(ex)'sin y+ex(siny)'=ex siny +ex 0=ex sin y
Uy=(ex)'cosy+ex(cosy)'=0 cosy -ex siny =-ex siny
Ux=Vy,Uy=-Uxとなるから、CREからfは正則関数。
f'=Ux+i Vx=excos y+i ex sin y =f
f'=fとなるから、(ez)'=ez
<対数>
z=(r;θ)=x+iy=ewのときに、w=logz=u+ivとしよう。定義域はz≠0の領域。
r =|z|=sqrt(x2+y2) , tan(θ+2nπ)=y/xから、θ+2nπ=tan-1y/x
z=ew=eueiv=reiθから、r=eu, v=θ+2nπ(nは整数)実対数関数を使ってu=Logrとなるから、
w=logz=(Logr , θ+2nπ)=Log|z|+ i (θ+2nπ)=Log |z|+ i argz= Log sqrt(x2+y2)+i tan-1y/x=U+i V
U=Log sqrt(x2+y2), V=tan-1y/x
微分の連鎖法則から、
Ux=1/ (x2+y2)1/2*1/2*(x2+y2)-1/2 *2x=x/(x2+y2)
Vy=(tan-1y/x)' =1/(1+(y/x)2)*1/x=x/(x2+y2)
Vx=(tan-1y/x)'= 1/(1+(y/x)2)*(-y)/x2=-y/(x2+y2)
Uy=1/ (x2+y2)1/2*1/2*(x2+y2)-1/2 *2y=y/(x2+y2)
Ux=Vy,Uy=-Uxとなるから、CREからfは正則関数。
f'=Ux+i Vx=x/(x2+y2) - i y/(x2+y2) =1/|z| z* = 1/z
(log z)'=1/zとなるね。
<三角>
積の微分、合成関数の微分、商の微分、微分の連鎖の公式が複素関数でも成り立つとする。
cos z=(eiz + e-iz)/2、sin z=(eiz - e-iz)/2i、tan z=sin z/ cos z を複素三角関数と定めるとき、
ezはex+iy=exeiy=ex(cosy+icosy)だから、zが2πi(虚軸の2π)増えるとyが2π増えて同じになる周期関数で正則関数。eizはzが2πiのi倍ふえると同じになるから、2πが周期の正則関数。
だから、複素三角関数は正則関数の合成だから、正則関数になるね。
・(cos z)'=[(eiz + e-iz)/2]'=[(eiz )'+ (e-iz)']/2 =[ieiz -ie-iz]/2=-sinz
・(sin z)'=[(eiz - e-iz)/2i]'=[(eiz )'- (e-iz)']/2i =[ieiz +ie-iz]/2i=cosz
ちなみに、cos2z+sin2z=[(eiz + e-iz)/2]2+[(eiz - e-iz)/2i]2=[2(eiz )(e-iz)+2(eiz )(e-iz)]/4=4/4=1
<双曲線>
cosh z=(ez + e-z)/2、sinh z=(ez - e-z)/2と複素双曲線関数を定めるとき、
上記の理由で、正則関数になる。
・(cosh z)'=[(ez + e-z)/2]'=[(ez )'+ (e-z)']/2 =(ez -e-z)/2=sinh z
・(sinh z)'=[(ez - e-z)/2]'=[(ez )'- (e-z)']/2 =(ez +e-z)/2=cosh z
ちなみに、cosh2z-sinh2z=[(ez + e-z)/2]2-[(ez - e-z)/2]2=[2(ez )(e-z)+2(ez )(e-z)]/4=4/4=1