曲面5(代数方程式で彫刻する)
このページはマス旅の一部です。
今回は「陰関数曲面と位相変化」がテーマです。
1. 数学外の知識
粘土を削って立体を作るとき、私たちは「外側から形を切り出す」作業をします。
しかし、水や油の中に溶け合う特殊な液体(メタボール)をイメージしてみてください。
2つの油滴が近づくと、互いにひっぱり合って滑らかに融合し、
1つのひょうたん型や球体になります。
コンピュータグラフィックス(CG)や3D医療画像(CTスキャン)では、
こうした「滑らかな塊の融合」や「断面から立体を構築する技術」に、
マーチングキューブス(Marching Cubes)というアルゴリズムが使われています。
これら身近な現象や技術は数学の陰関数曲面とつながっています。
どういうことでしょうか。
2. 数学の支援
<陰関数表示は3D等高線>
陰関数表示とは、曲面上の点 (x, y, z) が満たす条件を次のような1つの等式で表したものです。
f(x, y, z) = c
つまり、y=2x+3のように変数を両辺に分離して「外に取り出して(陽に)かく」のではなく、
変数たちをy-2x=3のように片方の辺にまとめることで特定の変数の「出っ張りをなくして(陰に)」かくのです。
だから、「陰」関数表示といいます。
また、「パラメータ表示」との意味の違いもあります。
パラメータ表示は、2つの変数 u, v を使って Surface(x(u,v), y(u,v), z(u,v)) のように定義します。
これは
「2次元の平らなシート (u, v) を、
3次元空間の中で折り曲げてなぞっている」
という意味になります。
では、「陰関数表示f(x,y,z)=c」はどういう「意味」になるでしょう。
空間内の温度がfで定まり、その値がcだとしましょう。
cが変数ならば4次元空間になりますが、cが定数ならば
「温度一定cになる等高線(等高面)」という意味にとれますね。
つまり、
「空間全体に定義された関数 f の3D等高線」
として「曲面」をとらえるということになるね。
これこそが、CGやCTで使われるマーチングキューブスの仕組みそのものです。
たとえば、
地球の表面に浮いている大気の温度分布を
衛星からのいろんなデータ解析によって、推定できたとしよう。
温度cごとに、温度の等高面(つまり、等温面)ができるはずだ。
だから、温度cを少し変化させるだけで、離れていた等温面同士が突然くびれて繋がり、
穴が開いたり消えたりする
「位相(トポロジー)の劇的な変化」が起こることは、十分ありうるのです。
3D等高線は物理的な観測データがなくてもかけます。
それは、代数方程式の利用です。
代数方程式でできる、代表的な「代数曲面」を紹介しましょう。
<カッシーニの卵形体>
前に「曲線3(曲面輪切りコレクション)」でもやりましたね。
トーラス(浮き輪、ドーナツ)を切断面を端から連続変化させると、
楕円→楕円が大きくなる→ひょうたん→∞マーク(レムニスケート)→2つの卵
へと分裂します。この卵を追いかけると、卵の曲面(4次曲面)がでますね。
トーラスが3次元空間にある図形なのになぜ4次曲面というと、
トーラス自体の方程式の次数が4次だからです。
(x^2 + y^2 + z^2 + R^2 - r^2)^2 - 4R^2(x^2 + y^2) = 0
<クムマー曲面>
4次の代数曲面の一種で、空間内に「最大16個の尖った点(円錐特異点)」を持つことができる非常に特殊で美しい曲面です。
正四面体の対称性を持たせると、
x^4+y^4+z^4-(y^2 z^2 + z^2 x^2 + x^2 y^2)-(x^2 + y^2 + z^2)+1=0
や、パラメータ λ, μ を用いた
(x^2+y^2+z^2-μ^2)^2- λ(1-z-√2 x)(1-z+√2 x)(1+z-√2y)(1+z+√2y)
のような対称性のある方程式にすることができます。
4次方程式なので、複素射影空間P^3 の同次方程式を使えば式自体に
もっと対称性のある綺麗なものになりますね。
<クレブシュの3次曲面>
3次の代数曲面(三次曲面)には、「必ず実サイズで27本の直線が含まれる」という驚くべき性質があります。
クレブシュの曲面はその最も対称性の高い美しい例です。
仮面舞踏会のベネチアンマスク、ファントムマスクを3つ繋いだような幻想的な形です。
同次座標(射影空間P^3)では
x^3+y^3+z^3+w^3=(x+y+z+w)^3
という単純でキレイな式ですが、3D空間に描画できません。
そこで、アフィン空間(R^3)に写すと、数学者のHuntが見つけた次のような大迫力の方程式になります。
81(x^3+y^3+z^3)-189(x^2 y + x^2 z + y^2 x+ y^2 z + z^2 x + z^2 y ) + 54xyz +126(xy+yz+zx)-9(x^2+y^2+z^2)-9(x+y+z)+1=0
3. コード化(GeoGebra)
#要素の追加>geogebra>作成>空間図形
#「数式ビュー」に数式を1行ずつコピペします。
4次、3次の陰関数式はエラーは出ませんが、すべて、xy平面上の曲線になるか、解なしで無反応になります。そこで、美しい曲線には式の対称性があることを逆手にとります。
★タイトル「現代アート?」
# パラメータk アニメーション(プレイボタンをオン)にすると曲面が躍ります。
k = Slider(0.1, 10.0, 0.05)
# 同次だが非対称の係数にする。
p:x+y+k z=k
eq1:x^2+k y^2+z^2-k^2 (k x+y+z-1)^2=k
これだけの設定で、ダイナミックに非対称ではあるけど、同次曲面だから、4次曲面・3次曲面の香りがしますよ。
<振り返り>
陰関数 f(x, y, z) = c は、空間全体に密度の場を敷き詰め、
c を定めることで特定の「切断面(等高面)」を取り出せる装置だ
とわかります。
高次の方程式を直接描くのが難しくても、パラメータ k や交線を利用することで、
陰関数が持つ「空間を切り出して、条件にあう形状だけを浮き立たせる彫刻マシーン」
としての魅力を十分に実感できますね。
現代アート?
クンマー曲面

クラブシュの3次曲面
