複素積分は周回の一筆書き?で単純化
1。複素関数の積分値は経路によって変わるのか?
このワークシートはMath by Codeの一部です。
複素関数の微分では、
z平面でz=bをz=aに近づくとき、無数の近づき方があるので、微分できる保証はなかった。
でも、微分できる保証をしてくれる便利な道具がCRE(コーシー・リーマン方程式)だったね。
複素関数の積分でも経路が大切だ。
z平面でz=aからz=bに変化させるにはいろんな経路がある。
経路を変えても積分値が変わらないときは、単純な経路に置き換えることが重要になる。
そこのところをくわしく見ていこう。
<経路積分>
・積分は線形な操作だから、k倍の積分は積分のk倍、和差の積分は積分の和差になる。
また、分割できる経路での積分は分割した経路での積分の和になる。
言い換えると、経路を逆向きにした積分は、もとの経路の積分と符号が逆で大きさが同じになる。
・z=x+i yがパラメータtの関数なら、dz= dx + i dy= dtとパラメータ変換できるね。
zの関数f(z) の曲線C:z=z(t) a≦t≦bでの経路積分は、∫Cf(z) dz=∫ab f(z(t)) dt
・正則関数の定積分
領域D内で正則な関数f(x)に対してF'(x)=f(x)となる正則な不定積分F(x)があれば
経路がちがっても、端点だけで積分値は等しくなる。
これを定積分といい、∫ab f(z)dz=[F(z)]ab =F(b)-F(a)と、実関数での積分と同様の計算ができる。
・正則でない関数の定積分
実際zの共役複素数z*は、正則な関数ではない。
w=f(x+yi)=x-yiはU=x, V=-y。Ux=1=-Vy, Uy=0=Vxだから、CRE(Ux=Vy, Uy=-Vx)から正則ではないね。
正則でない定積分は経路によって値が変わる。
(例)
平面でz=0からz=1+iに変化させるにはいろんな経路がある。
zの共役複素数z*を積分するのに、2つの経路C1, C2+C3で値を調べてみよう。
C1:z= (1+i) t ( 0≦t≦1) は(0,0)と(1,1)を結ぶ線分 dz=(dz/dt) dt= (1+i) dt
C2:z= t ( 0≦t≦1) は(0,0)と(1,0)を結ぶ線分 dz=(dz/dt) dt= 1 dt
C3:z= 1+i t ( 0≦t≦1) は(1,0)と(1,1)を結ぶ線分 dz=(dz/dt) dt= i dt
∫C1 z dz= ∫01 [(1+i) t]* (1+i) dt =∫01 (1-i) t (1+i) dt = ∫01 2t dt=[t2] 01 =1
∫C1+C2 z dz= ∫01 [ t]* 1 dt+ ∫01 [1+i t]* i dt = ∫01 t dt+ ∫01 [1-i t] i dt
=∫01 t dt+∫01 (i+t) dt=∫01 2t dt+∫01 i dt=[t2] 01 +i [t] 01 = 1+i
やはり、始点と終点が同じでも経路がちがうので線積分はちがうね。
関数の積分が経路によって変わるのは正則でないから
2.コーシーの積分定理で単純化
複雑なものがあれば分解、合成、変形で単純化するというのは数学でよくやる手だ。
複素関数の積分でもそれができたらいいね。
<コーシーの積分定理(正則関数の周回積分=0)>
zの関数f(z)=U(x,y) + i V(x,y) を周回積分する。
曲線C:z=z(t)が閉曲線で、f(z)がC内部領域で正則な関数ならば、周回積分=0
理由は、ストークスの定理とCRE(コーシー・リーマンの方程式)から
∫Cf(z) dz=∫C(U+i V)(dx+i dy)=∫C(U+i V)(dx+i dy)=∫C(U dx -V dy)+i ∫C(V dx +U dy)
=∫S(-Vx -Uy)dxdy+i ∫S(Ux -Vy)dxdy (ストークスの定理から)
=-∫S(Vx +Uy)dxdy+i ∫S(Ux -Vy)dxdy
=0 (CREから)
場合によっては、自分と交わらない閉曲線のことを単一閉曲線という、略して単閉としよう。
曲線Cとその内部領域(Domain)のことをCDとかこう。
・円C:|z-a|=r(反時計回り)にそった周回積分は、1/(z-a)の積分=2πi、1/(z-a)nの積分=0。
(理由)
Cの点z=a+reiθ(0≦θ≦2π)だから、1/(z-a)=1/reiθ=r-1 e-iθ、dz=(dz/dθ)dθ=ireiθ dθ
∫C 1/(z-a) dz=∫02π r-1 e-iθ i r eiθ dθ = i∫02π 1 dθ=i[θ] 02π =2πi
∫C 1/(z-a)n dz=∫02π r-n e-inθ i r eiθ dθ = ir1-n ∫02π ei(1-n)θ dθ=ir1-n [1/i(1-n) ei(1-n)θ] 02π =0
(例)
べき関数(z-a)nはz平面全体で正則なので、単閉C1Dでも正則なので、∫C1(z-a)n dz=0
f(z)=1/(z-a)nはaでは正則にならないが、点aが単閉C2Dの外なら単閉C2Dでfは正則だから∫C2f(z) dz=0
<積分を単純化しよう>
・系1
領域Dに正則関数f(z)がある。Dの内部に単閉C1Dがあり、その中に単閉C2Dがあるとしよう。
C1左回り、C2左回りで、∫C1f(z) dz= ∫C2f(z) dzC1を左回り1周してから、内部でC2に連結ABして、
C2を右回り1周してから連結線を戻るBAと一筆書きC1+AB+(-C2)+BAができる。コーシーの定理から、
∫C1+AB+(-C2)+BA f(z) dz=0 積分の線形性と逆順路の積分和が0だから、
∫C1f(z) dz- ∫C2f(z) dz=0 となるから。
(例)
円C:|z-a|=r(反時計回り)にそった1/(z-a)の積分=2πi、1/(z-a)nの積分=0。
だから、円Cを含む単閉C2Dでの積分値もそれぞれ、2πi、0になる。
・系2
領域Dに正則関数f(z)がある。
Dの内部に単閉C1Dがあり、その中に互いに素な単閉C2D、C3D、…...、CkDがあるとしよう。
C1からCkまで左回りで積分するとき、∫C1f(z) dz= ∫C2f(z) dz+∫C3f(z) dz+........+∫Ckf(z) dz
C1を左回り1周してから、内部でC2,C3,...を順に右回りで半周してから、Ckを右回りで1周し、
そのあとで、C3、C2,C1ともとにもどる橋渡しの一筆書きができ、
積分の線形性と逆順路の積分和が0だから。
(例)
円C1:|z-i|=1/2(反時計回り)にそった1/(z-i)の積分=2πi、1/(z+i)の積分はC1で正則だから=0。
円C2:|z+i|=1/2(反時計回り)にそった1/(z+i)の積分=2πi、1/(z-i)の積分はC2で正則だから=0。
円C3:|z|=2(反時計回り)にそったf(z)=z/(z2+1)=1/2[1/(z+i)+1/(z-i)]の積分を考える。
積分路C3にそったf(z)の積分はコーシーの系から積分路C1とC2で和分解できる。
C1にそった f(z)の積分値は1/2[0+2πi]=πi、C2にそった f(z)の積分値は1/2[2πi+0]=πi。だから合計2πiだね。
3.コーシーの積分公式で積分の幅を広げる
<積分表示>
領域Dに正則関数f(z)/(z-a)がある。Dの内部に単閉CDがあり、その中に単閉CrDがあるとしよう。
点aはCDrDがあり、Crは|z-a|=rの反時計回りの円周だとする。
コーシーの定理の系1から、
CDにおけるf(z)/(z-a)の周回積分=CrDにおけるf(z)/(z-a)の周回積分
となるね。Cr上のz=a+reiθについて、dz=dz/dθ dθ= ir eiθdθから、1/(z-a)=1/reiθだから、
1/(z-a)dz = 1/reiθ ir eiθ dθ= i dθとなる。
だから、r→0の極限は
∫C f(z)/(z-a) dz=∫Cr f(z)/(z-a) dz=∫0 2π f(a + reiθ) i dθ→∫0 2π C f(a) i dθ=f(a) i[ θ] 0 2π =2πi f(a)
つまり、
∫C dz=2πi f(a)
これから
f(a)=1/2πi ∫C dz
aをzとして動かすために、zにζとしてから、aにzを置き換える。
f(z)=1/2πi ∫C dζ (コーシー積分公式)
・これを微分してみる。
df(z)/dz=1/2πi [d ∫C dζ/dz]=1/2πi ∫C d/dz f(ζ)dζ =1/2πi ∫C dζ
f(z)(2)=1/2πi ∫C d/dz dζ=2*1/2πi ∫C dζ
f(z)(3)=2*1/2πi ∫C d/dz dζ=3*2* 1/2πi ∫C dζ
........................
f(z)(n)=n!* 1/2πi ∫C dζ (グルサー公式)
言い換えると、
∫C dζ=2πi f(z)(n)/n!
だから、正則な関数は何回でも微分できる。
(例)
円C:|z|=4で単閉CDでf(z)=z3, cosz, z/(z-5),3z2とすると、f(z)は正則。
∫C z3/(z-i)dz= ∫C f(z)/(z-i)= 2πi * i3= 2π
∫C cosz/(z-π)dz= ∫C f(z)/(z-π)= 2πi * cos(π)= -2πi
∫C z/(z-5)(z+2)dz= ∫C f(z)/(z+2)= 2πi * f(-2)=2πi * (-2)/(-7) = 4/7 πi
∫C 3z2/(z-i)3dz= ∫C f(z)/(z-i)3= 2πi * f(z)(2)/2!= 2πi * 6/2=6πi
(例)
円C:|z|=1で単閉CDでf(z)=sinz, 1/8z3とすると、f(z)は正則。
∫C sinz/z2dz= ∫C f(z)/(z-0)2= 2πi * f(0)'= 2πi*cos(0) =2πi
∫C z3/(2z -1)3dz=∫C 1/8 z3/(z -1/2)3dz= 2πi * f(1/2)(2)/2!= πi * 3/4(1/2)=3/8 πi