曲面4(最小曲面の変身と消滅)
このページはマス旅の一部です。
今回は「最小曲面と平均曲率」がテーマです。
1. 数学外の知識
針金でつくった輪っかを石鹸水に浸して静かに引き上げると、きれいな膜が張ります。
2つの平行な円形リングを引き上げると、まっすぐな円柱ではなく、中央がすっとくびれた鼓(つづみ)のような形になります。
2つのリングを少しずつ遠ざけていくと、くびれはどんどん細くなっていきます。そしてある限界の距離を超えた瞬間、膜は耐えきれなくなってパチンと弾け、2つの円枠にそれぞれ平らな円膜を残して分断されてしまいます。
シャボン膜は「できるだけ表面積を小さくしてエネルギーを最小に抑えよう」
と自律的に形を変えます。
この力を「表面張力」と呼ぶことは有名ですね。
2. 数学の支援
これらの物理現象は数学の曲率が隠れています。
<最小曲面>
前回学んだガウス曲率 K = κ_1 κ_2は「2つの曲率の積」でした。
今回は平均曲率 H (2つの主曲率の平均)
H = {κ_1 + κ_2}/2
これが主役です。
曲面上のすべての点において H = 0(すなわち κ_1=-κ_2)
となる曲面を「最小曲面」と呼びます。
「最小曲面」はどの点でも主曲率の2値の絶対値が等しく符号が逆になるから、
どこを切っても局所的にバランスのいいサドルでできている、
「理想のサドル」です。
<最小曲面の例>
では、最小曲面にはどんなものがあるでしょう。
平面があります。
単純でつまらないですが、
κ_1=κ_2=0だから、H=0ですから最小曲面の定義にあてはまります。
平面も理想のサドルの仲間なんですね。
他には、懸垂面 、螺旋面、
エネッパー曲面、シェルクの曲面リーマンの極小曲面
などがあります。
懸垂面(カテノイド)は懸垂線(カテナリー)を回転させてできた曲面
螺旋面(ヘリコイド)はらせん階段のような曲面。
エネッパー曲面は数式はシンプルですが、大きく広がると自己交差を持つ曲面。
シェルクの曲面は周期的な構造を持つ曲面。
リーマンの極小曲面は無限に繰り返される波状の曲面。
<カテノイドの破綻>
懸垂線(カテナリー)はロープを垂らしてできる線でした。
放物線y=x^2を少し膨らましたようなy=acosh(x/a)という数式で表すことができたね。
(双曲余弦cosh(t)={e^t+e^(-t)}/2)
x軸に向かって垂れ下がる形です。
このxをzに置き換えると、
z軸に向かって垂れ下がる曲線になる。
それをz軸で回転したものが懸垂面(カテノイド)だ。
z=vの値で回転体を切断すると、半径がr=c*cosh(v/c)の円ができる。
だから、円の回転角をuとすると、'(x,y)=(rcos(u),rsin(u))となるので、
カテノイドのパラメータ表示は、
x=c*cosh(v/c)*cos(u),
y=c*cosh(v/c)*sin(u),
z=v
ここで、cos(u)^2+sin(u)^2=1から、x^2+y^2=c^2 cosh^2(z/c)とも表すことができるね。
2つの円形リングの間のシャボン膜が破綻する条件は、すでに計算されています。
リング間の距離 h とリングの半径 R の比(h / R)において、
半分の高さと半径の比((h/2) / R)が約 0.663、
つまり、全体の間隔比 h / R ≈ 1.325を超えると、
「カテノイドを維持する数学的な解」が存在しなくなります。
<カテノイドとヘリコイドの変身>
カテノイドとヘリコイド。
この2つの曲面は、見た目が全然ちがいますね。
それでも、
H=0という共通点があるというのは面白いですね。
共通点はそれだけではないのです。
複素解析で学ぶテーマの1つに等角写像がありますね。
カテノイドとヘリコイドは「等角で等長な写像」を通じて、
表面の長さや面積(第一基本形式)を一切変えずに滑らかに連続変形できるのです。
数式で見てみよう。
半径cの円柱を上るらせんは(c*cos(u), c*sin (u), c*u)とかけるね。
らせん面はz軸かららせんに垂線を下ろして足場を作った面です。
cを定数でなく0から∞にすると、z軸から無限の幅のあるらせん面ができるね。
この直線方向の変化させるためにx,yのcをc*sinh(v)にすると、
(c*sinh(v)*cos(u), c*sinh(v)*sin(u),c*u)
これが、カテノイドに似たヘリコイドの式だ。
カテノイドは、
(c*cosh(v/c)*cos(u), c*cosh(v/c)*sin(u),v)
v/c,vはc倍するとvとc*vになるから、
(c*cosh(v)*cos(u), c*cosh(v)*sin(u),c*v)
だから、かなり近い。
こうなると、カテノイドがcoshだったのをsinhにして、zのパラメータを変えただけになる。
そこで、
x = cosα*c*cosh(v)*cos(u) + sinα*c*sinh(v)sin(u)
y = cosα*c*cosh(v)*sin(u) - sinα*c*sinh(v)cos(u)
z = cosα*c*v + sin(α)*c*u
とおこう。
α=0だと、cosα=1,sinα=0で、
第1項(カテノイド)が取り出されます。
α=π/2だと、cosα=0,sinα=1から第2項(ヘリコイド)のみになります。
ヘリコイドのsin,cosがx,yで逆になり、cosに-がついている。
これは、連続変形をしたあとの位相が90度ずれてしまうためなのでもとの式と等価だね。
3.コード化
<geogebra>
★タイトル「カテノイドからヘリコイドへの変身」
#パラメータalphaは、0: カテノイド、 pi/2: ヘリコイドです。
#設定>上級>アニメーション>タイプを「増加」
alpha = Slider(0, pi / 2, 0.01)
S = Surface(cos(alpha)*cosh(v)*cos(u) + sin(alpha)*sinh(v)*sin(u), cos(alpha)*cosh(v)*sin(u) - sin(alpha)*sinh(v)*cos(u), u*sin(alpha) + v*cos(alpha), u, -pi, pi, v, -2, 2)
★タイトル「カテノイドの消滅」
#2リングの距離h、設定>上級>アニメーション>タイプを「増加」
h = Slider(0.5, 2.0, 0.01)
#くびれパラメータ c
# h > 1.325 で解なし
S = If(h <= 1.325, Surface(cosh(v)*cos(u), cosh(v)*sin(u), v, u, -pi, pi, v, -h, h))
#上下の円形リング
ring1 = Curve(cosh(h)*cos(u), cosh(h)*sin(u), h, u, -pi, pi)
ring2 = Curve(cosh(h)*cos(u), cosh(h)*sin(u), -h, u, -pi, pi)
#限界を超えた(弾けた)ときに枠内に残る2つの平らな円形膜(円盤)
cap1 = If(h > 1.325, Surface(r*cos(u), r*sin(u), h, u, -pi, pi, r, 0, cosh(h)))
cap2 = If(h > 1.325, Surface(r*cos(u), r*sin(u), -h, u, -pi, pi, r, 0, cosh(h)))
カテノイドからヘリコイドへの変身
カテノイドの消滅
<振り返り>
・カテノイドからヘリコイドへの変身
スライダー alphaをアニメーションしてみよう。
真ん中に穴の空いたカテノイドが、滑らかに捻れながら
らせん状のヘリコイドへと変化します。
とても神秘的ですね。驚異的な変形だと思いませんか。
この間、曲面上の任意の2点間の「距離」や「面積」は一切変わっていません。
平均曲率 H=0のままで、さらにガウス曲率Kも不変です。
・カテノイドが消える瞬間
geogebraで、図形が消えたり、数値が消えたりするのは、
「?」(未定義)になったときです。
でもカテノイドが消えるのは、
「解なし」になるためです。
スライダー h を動かして限界値(1.325)を超えた瞬間、
中央のくびれたカテノイドが「パチンと消え」、
上下の針金リングの中に平らな円膜(cap1, cap2)が残ります。