圏論の「謎のキーワードたち」を理解しよう
このページはマス旅の一部です。
ここまで、1Fの圏は点と矢、2Fのファンクターは圏をまるごとうつすコンテナ、3Fの自然変換はコンテナどうしの調停のための翻訳と随伴カップル判別というようにマクロ的な視点で見てきました。
この3階建ての妥当性とでかいキーワード(圏、ファンクター、自然変換、随伴)のイメージ理解が、数学の分野の例を眺めるツアーによって、できたのではないでしょうか。
今回は、「圏論の謎のキーワードたち」がテーマです。
圏論の本を読み進めると、いろいろ「謎のワード」が出てきますね。
謎のまま放置すると、?の嵐になり、考えることをやめるどころか先に進むことをあきらめるでしょう。正攻法は、一字一句理解して、定義と証明に付き合って納得することです。
しかし、それをやると、日がくれるどころか、それだけで年月が過ぎるでしょう。
マス旅は、専門家をめざすのではなく、「ブラタモリの数学版」のようなもです。
事例だけでは証明にならず、反例の可能性もあるでしょう。
でも、証明はマス旅の目的ではありません。
数学で遊んで数学のよさを感じることが目的だからです。
zから2点x、yへの射はxとyの積(直積)の点を通る?
2点x、yからzへの射はxとyの余積(直和)の点を通る?
1.圏のキーワードたち
まずは、1Fから。
<2点xとyの積>
結論「点zから2点x、yの両方に射があるなら、zは必ず「xとyの積」を通らないとx、yに行けません。しかもxとyの積は1意的です。」
ところで、「2点の積ってなんだ?」
となるのですが、これを論理式にスライドするとすっきりわかります。
z→xを論理でみると、zならばxです。
集合のベン図をかくとZはXにすっぽり入る。
z→yは、集合だと、ZはYに入っている。
矢(z,x),矢(z,y)があることは、集合(Z in X) and(Z in Y)
XとYの共通部分の要素が空かどうか一般には不明だが、論理的にはありうる。
ZはXとYのかぶったところに入っているね。
あれば、x and y、XとYを同時に組にしたもの、X∩Y。
xとyの両立というよりもxとyの並置(x、y)をイメージしよう。
これって、x成分、y成分をもつ点x×yだね。
だから、z→x×yだ。
点x×yはxの一部で、yの一部だから、2本の矢ができね。
x×y→x、x×y→y
ということは、z→x、yは、必ずx×yを経由することがわかるね。
これを矢印図にしたものが、本でよくみる、
頂点Zで底辺XYの二等辺三角形ZXYがあり、ZからXとYに矢がある。
すると、かならず辺XYの中ほどに積X×Yがあり、
Zが積X×Yを指す矢と、積X×YからもX,Yをさす矢がペアになってできるという図だとわかるね。
<2点xとyの余積>
「点zに2点x、yの両方から射があるなら、x、yからzには必ず「xとyの余積」を通らないと行けません。しかもxとyの余積は1意的です。」
「2点の余積ってなんだ?」
この文章の流れ、デジャヴ感ありませんか?
そうです。積のときと矢印の向きを逆にしただけです。
積はproductですが、余積はcoproductの略です。
「co」は日常言語では副という意味で使われますが、
圏論では、矢印をひっくり返したもの(双対)という意味で使います。
「双対」って大事ですね。正四面体の面の中心を頂点にすると正6面体ができて、面と点をひっくり返したものでした。これが双対です。
余積は、別名、和(sum)とも言います。
積と同じ流れで論理、集合のイメージを考えてみよう。
矢(x,z),矢(y,z)があることは、集合(X in Z) and(Y in Z)
XとY両方がZに入っているのだから、XとYの合併もZに入っているね。
x or y の点は集合では、X∪Y。だから、X∪Y in Zとなるね。
XとYの共通部分あるなしはおいといて、xoryをx⊕yとかこう。
矢でかくとx⊕y→zだ。
x、yともに、x⊕yに含まれから、2本の矢が生まれるね。
x→x⊕y、y→x⊕y
ということは、x、yからzにいくには、必ずx⊕yを経由することがわかるね。
これを矢印図にしても、積の図の矢印を反対にして、記号を×を⊕にするだけのそっくりの図になることもわかるでしょう。
この、ひっくり返すだけで全く同じ構造が浮かび上がる「対称性」と、
どこへ行くにもここを通るという「普遍性」の感覚。
これこそが、圏論のツアーで一番大切なものでしょうね。
2.ファンクターのキーワードたち
次は2階に来ました!
<Hom_C(-,B)>
最初見ると「何言ってんの?」
となる書き方ですが、順序だてると別に変な記号ではありません。
Cは用心深く圏Cという場所の指定ですね。
ーはいわゆるワイルドカード、
なんでもありということです。
AでもCでもなんでもいいのです。
2点A,Bと2点をつなぐ矢があるとき、矢(A,B)とかAr(A,B)とかくと、
AからBへの射(矢)のことですね。
3点A,B,Cと2点をつなぐ3本の矢、A→B、A→C、C→Bがあるならどうでしょう。
点Aからは直接点Bでも行けるし、点Cを経由してもいけます。
だから、矢(A,B)とかくときはA,Bをつなぐ1本の矢A→Bだけででなく、
点Cを通る遠回りの道、A→C→BもAからBの射(矢)です。
1本とはかぎらない矢の集合だはっきりさせる記号が「Hom(X,Y)」です。
始点X、終点Yの射全部の集まり。
射の「集合」なんですね。
ここまでの話しを総合すると、もうおわかりですね。
要素である射と射の集合はレベルはちがいます。
このHomは1Fの圏(点と射)の住人ではないです。
そう、2Fのファンクターです。
もともと準同型写像(Homo-morphism)から来てます。準同型は形をかえずにそのまま映すという意味から来てますから、正に「ファンクターとしての射だ」というネーミングとして「Hom」
と書くのはわかりやすいですね。
1Fに点と射がうようよしていて、それを2FのHomがえいやと働くイメージです。
さっきの3点ならば、Hom(A,B)の要素は2本の矢になるね。
Hom_C(-,B)
というのは、圏Cでどっかの点から点Bを終点いきつける射(矢)の集まり
ということになりますね。
さっきの図でいうと、Hom(A,B)が2本、Hom(C,B)が1本だから、合計3本が要素になるね。
注意点は、もしかっこの中の順番が反対なら反対の意味になりますね。
Hom_C(B,-)は点Bが始点のあらゆる射(経路)ぜんぶのあつまりです。
さっきの図では、空集合になるね。
<局所小圏>
圏Cの点の全体をOb(C)やC_0,射の全体をAr(C),C_1とかいたりします。
Ob(C)の適当な2点A,Bに対してHomC(A,B)(ホム類、ホムファンクターと言います)
が「集合になる」圏を局所小圏といいます。
何のことでしょう。これは、空集合を許さないという意味ではありません。
空集合も集合だからです。
ラッセルの集合の言葉遊びにも見える危険なパラドックスは知ってますよね。
集合全部の集合は族といって集合とは別のタイプ(型)だとして集合論の危機を脱出しした
「タイプ理論」が有名ですね。
集合の定義が緩すぎて、そんなヤバい族まで入るような巨大な集まりは「真クラス(しんクラス)」と言って、集合とは別物として扱おう、と決めました。
「局所小圏」の「局所」とは、全体は見渡せないほど巨大(真クラス)でも、「手元の2点間(局所)の矢印を数えるときだけは、危ないパラドックスが起きない普通のお手頃サイズの集合ですよ」
という安心の「ラベル」だ
と思ってかまいません。
圏の宇宙を考えるようなグロタンディークのような数学の専門家以外は、
とりあえず気にしなくてもよさそうですね。
<共変と反変>
共変と反変は1次元で考えるとカンタンだ。座標変換というのは基底が変わることだった。
基底eというモノサシが2倍に伸びると、新基底Eの長さはもとの基底×2になる。
基底の変化と共に変わるから「共変」だ。基底どうしは共変だ。
ところが、物理量Pをモノサシで測った測定数値は4が2に変わるでしょう。2分1になる。
モノサシの変化と反対になるから「反変」というね。
Pの測定値は反変だ。
だから、「反変なPの測定値×共変な基底=同じ物理的な実体量」という反比例の関係から来ている。
2次元平面の座標変換や微積で説明しようとするとけっこう大変になる。
でも、共変か反変かの名前よりも実際はテンソルの添え字の上下だけ見れば、分数の約分みたいでカンタン。実は共変か反変かで悩むことはあまりなくなる。くわしくはこちら。https://www.geogebra.org/m/twxxx3yq#material/wkdxwd9d
さて、ファンクターの共変と反変に入ろう。
物理では、モノサシ(基底)の変化と同じ向きに変わるか(共変)、逆向きに変わるか(反変)でした。
圏論では、もとの圏の矢印の変化(向き)と同じ向きに写すか(共変)、逆向きに写すか(反変)です。
圏Cから圏Dに1Fの点と射と1、2FのHomをまるごと移すファンクターFであることは同じ。
射の向きで区別する。
共変ではHom(X,Y)をHom(F(X),F(Y))と同じ向き、F(f*g)=F(f)*F(g)同じ順番でつなぐから、
まるごと同順に持ち上げている。
反変ではHom(X,Y)をHom(F(Y),F(X))と逆の向き、F(f*g)=F(g)*F(f)逆の順番でつなぐから、
「双対」にして持ち上げている。
またまた、「双対」が出てきたね。
ここで「おや?」と気づいた人は鋭い!さっき登場した Hom_C(-,B)を思い出してください。
ワイルドカード(-)がスタート地点(左側)にありましたね。
スタートの点を(A) から (C) へと動かすと、手に入る矢の束は逆に (C) スタートから (A) スタートへと「逆向きに連動」して変化したはずです。
そう、あのHom_C(-,B)こそが、
まさに「反変ファンクター」の代表格だったんだね。
3.ファンクターのさらに奥へすすむ
ファンクターで大切なのは共変・反変だけではない。
もとの圏の性質をどのくらい保持できているかも重要だよね。
原型をたもってくれないとファンクターとして使い物になりませんから。
<忘却と充満と忠実>
「圏の同型」というは文字通り、
圏Cの点も射もまるごと圏BにコピペできるコピーファンクターTがあるということはわかる。
Tのコピーは両方向とも「完コピ」つまり、全単射だということだね。
随伴ペアを作るとき忘却ファンクターは大活躍しました。
群のファンクターなのに群の点と射だけ移す。群の構造は忘れる。
位相空間のファンクターなのに空間の点と射のだけ移す。位相構造は忘れる。
すごく間抜けなファンクターのようですが、随伴ペアを作るときは役立った。
それだけではありません。
「共変ファンクターF、つまりHom集合の矢が同じ向きにうつるファンクターが、
完コピでないときにどうなるか」という話しです。
これは、1本ずつの射をどう移すかという1Fの話題ではありません。
2FにあるHomの移し方であることに注意しよう。
F:Hom(X,Y)→Hom(F(X),F(Y))という矢印集合を矢印集合にうつす共変ファンクターFが、
単射であるとき F は忠実(faithful)(または埋め込み) であるという。
つまり、移った先の射をもとに戻すと高々1つの射しかない。
2つの射がFで1つにかぶることがないからだ。
行先がかぶるようなモテモテ君はできないということだね。
F:Hom(X,Y)→Hom(F(X),F(Y))という矢印集合を矢印集合にうつすファンクターFが、
全射であるとき充満 (full) であるとラベルを貼ろう。
つまり、移った先の射のもとはかならずあるから、少なくともどの射にもそのもとがある。
なんでこれができたんだろうという出所不明の射がFで持ち上げたHom集合にはない。
かならず戻れるということだね。
特にHomの射が全単射のときは充満忠実 (fullyfaithful) であるという。
「忘却関手は忠実であるが, 一般には充満ではない。」
どういうことでしょう。
位相空間圏Tから集合圏Sにうつす忘却共変ファンクターを考えてみよう。
F:Hom_T(X,Y)→Hom_S(F(X),F(Y))
つまり、忘却ちゃんFはうねうね曲面Aが曲面Bを変形する経路の集合Hom(A,B)を
曲面A,曲面Bの写真F(A),F(B)として移すだけでなく、その変形する経路もコマ動きの動画として移す。
Aがコーヒーカップ型の浮き輪、
Bがドーナツ型の浮き輪、
Cが円柱をまげてCの字にした浮き輪、
Dがボール型の浮き輪だとする。
Hom_T(A,B)の射集合には
「コーヒーカップがドーナツになる」色んな変形経路はパラパラマンガのように記録できる。
それがHom_S(F(A),F(B))だ。
Hom_T(C,D)の射集合には
「Cの字がボールになるまで」の変形経路があり、その記録が
Hom_S(F(C),F(D))だ。
Sは忠実な動画集で問題ないように見える。。。。。。
しかし、BとCは位相的に別なので射は存在しないのに、
F(B)とF(C)は位相が関係ないのでF(B)からF(C)に変形する動画ができてしまう。
写真的な忠実さはあっても、Sの世界の点をつないで作れる圏の中の射には、
もとのTの世界にないものでありうる。
フェイク動画が可能なのだ。忘却は恐ろしい。
Tの情報を失っているわけですね。
その意味で情報の忠実さだけではなく十分さという視点も必要になるのです。
忘却ファンクターは反面教師になりました。