楕円曲線と群:n等分点のガロア表現
このワークシートはMath by Codeの一部です。
これまで、楕円曲線は群と強くつながることがわかったね。
また、楕円曲線のn等分点群のガロア群は行列に表すことができる、ガロア表現があることがわかった。
今回はガロア表現そのものにフォーカスをあててみたい。
1.E[n]のガロア群のガロア表現をつくる
<n等分点群E[n]のガロア表現の振り返り>
空O∞からきたボールをn回けってO∞に返す。
かんたんにかくとnP=OとなるPがn等分点だった。
nP=Oとなる
複素トーラス(浮き輪、ドーナツ)上にある曲線E上の点のあつまりをE[n]とかいたね。
複素トーラス上の点E[n]の要素は2方向の点AとBの線形結合
sA+tB(for s,t in range(n))
とかくことができた。
トーラスのもとは複素平面の「格子の2重周期性」によるものだったから、
nP=Oという周期nが2方向で独立に効いてくるので、E[n]の異なる要素がn×n個あることもわかった。
このE[n]はくるくるパス回しをしている仲間で、もともと群になっていた。
この群をコップE[n]に入れたまま、かきまぜる操作ρのあつまりも群を作り、「ガロア群」といったね。
ガロア群は自己同型だから、当然、準同型性(たし算をたもつ)があるので、
かきまぜたあとの点ρ(A)とρ(B)もコップE[n]に入っているから、それぞれpA+qBの形とかけるから、
「ρ自体をA,Bに作用させると、
2段の行ベクトルつまり、行列でかくことができて、それがガロア表現」だった。
つまり、「ガロア群」から「ガロア表現」への写像、
ρn: Gal(K/Q)→GL2(Zn)があるということだった。
要約するとこんな感じの情報提供でおしまい。
という感じだったね。
くわしくは、こちら、https://www.geogebra.org/m/twxxx3yq#material/krhywgac
このように「ガロア表現がある」ことはわかったけど、具体的には書き出してなかったね。
今回は、「ガロア表現を具体的に」かいてみよう。
<y^2=x^3-2のガロア群のガロア表現>
E:y^2=x^3-2を考えてみましょう。
x^3-2=0の解は1の3乗根の1つω=-1/2+1/√3 i と2の3乗根s=nsqrt(2)を使って表せます。
x^3=1の解を{1、ω、ω^2 }とかけるので、x^3-2=0の解は{s, sω,sω^2}とかけますね。
群論の用語と使ってかくと、
このωとsをQにくっつけてエクステすると、すっごいぼてぼてした拡大体ができます。
それが、K=Q(ω, s )={a+bω+c s +dωs +e s^2+f ωs^2| a,b,c,d,e,f∈Q}ですね。
Q(ω)でもQ(s)でも、x^3-2=0の解をすべて表すことができないため、
このどでかい拡大体Kがf(x)=x^3-2の最小分解体になってます。これでも最小です。
そして、最小多項式f(x)=x^3-2=0のガロア群Gal(f/Q)のQ上の共役、
かきまぜられるコップはX={1,2,3}={s, sω, sω^2}だということです。
この3要素の置換群をS3={e, r:(1 2 3), w:(1 3 2), u:(1 2) , v:(1 3) ,t :(2 3)}としよう。
具体的には、
r(s)=sω 、r(sω)=sω^2、r(sω^2)=s
t(s)=s, t(ω)= ω^2、 t(ω^2)=ω
w=r*r, v=r*t, v=w*t
この6置換で入れ替えがすべて表現できる。
ガロア群Gal(f/Q)はAut(Q[ω,s]/Q)=S3で、
ガロア群のどの置換でもベースの有理数体Qは不変のまま、無風だ。
しかし、これだと、ただの「数の世界」の話です。
「幾何の世界」に対応させましょう。
楕円曲線EのコップはE[n]です。
2等分点の群E[n]には
O∞、A=(s,0), B=(sω,0), C=(sω^2,0)の4点
があります。
K=Q(E[n])が拡大体ですね。
位数4=2×2からZ2×Z2。
A,Bを生成元とすると、C=A+Bになる。
4つの要素をA、Bの線形結合でかくと、
O=0A+0B, A=1A+0B, B=0A+1B, C=1A+1Bとなりますね。
基本となる置換を2つ決めます。
A→B→Cの巡回、回転をρとすると、
ρ(A)=B =0A+1B ,
ρ(B)=C=A+B =1A+1B,
A,Bの動きに着目すると、Mr={{0,1},{1,1}}
ωとω^2の入れ替えをτとします。
sは実数なのでA(s,0)だけ動きません。BとCが入れ替わりますね。
τ(A)=A =1A+ 0B,
τ(B)=C=A+B = 1A+1B
A,Bの動きに着目すると、Mt={{1,0},{1,1}}
このρとτがガロア表現です。
ガロア表現はガロア群の表現ですから、Gal(f/Q)の表現、つまり、
置換群S3={e, r:(1 2 3), w:(1 3 2), u:(1 2) , v:(1 3) ,t :(2 3)}に対応するでしょう。
課題:geogebraを使って、ρ={{0,1},{1,1}}とτ={{1,0},{1,1}}を生成元としてS3と同型な群ができることをたしかめよう。
タイトル「ガロア表現:置換群の計算が行列計算でできる。」
Mr={{0,1},{1,1}} #r;(123)にあたる
Mt={{1,0},{1,1}} #t:(23)にあたる
Mrt = Mr Mt
Mtr = Mt Mr
Mtt = Mt Mt
Mrr = Mr Mr
としましょう。
結果を見ると行列の成分に2が出てきておや?
と思うかもしれません。mA+nB(for m,n in range(2))のはずだから、
m,nは0,1しかダメですよね。
でも、冷静に考えるとgeogebraにはm,n が2重周期性から0,1だけに制限できているという
ことを伝えるか、その結果としてのm=Mod(m,2),n=Mod(n,2)という処理を仕込んであげるかしないと
2以上の数で出てきてもなんの不思議ではないのです。
そこは冷静に2が出たら2で割った余りに直すという読みかえをしましょう。
すると、
Mrt={{1,1},{2,1}}つまり、⇒{{1,1},{0,1}}と計算されます。
だから、rt(A)=1A+1B=C, rt(B)=0A+1B=B これは、ACの入れ替え、r*t=v:(1 3)にあたる。
Mtr={{0,1},{1,2}}つまり、⇒{{0,1},{1,0}}と計算されます。
だから、tr(A)=0A+1B=B, tr(B)=1A+0B=Aとなり、ABの入れ替え、t*r=u:(1 2)にあたる。
Mtt={{1,0},{2,1}}つまり、⇒{{1,0},{0,1}}と計算されます。
だから、tt(A)=1A+0B=A, tr(B)=0A+1B=Bとなり、恒等置換、t*t=eにあたる。
Mrr={{1,1},{1,2}}つまり、⇒{{1,1},{1,0}}と計算されます。
だから、tt(A)=1A+1B=C, tr(B)=1A+0B=Aとなり、rの逆、r*r=w::(1 3 2)にあたる。
2つの生成元から他がみな計算で出せました。
群の計算が行列計算で済ませられるというのはすごいことですね。
群の計算は辞書構造とかを使ったり、特別なパッケージを使わないと難しいのですが、
行列なら、たいていのプログラミング言語に入っている数値パッケージで計算できます。
2次行列だから、なんなら手計算でもできるでしょう。
ガロア表現のおかげで、「群の扱いが格段にカンタン」になりますね。
ガロア表現:置換群の計算が行列計算でできる。
2.行列をかえてみる
行列を変えてみる。
<振り返り>
基本的に格子が2方向あることから考えてもS3の生成元が回転と交換の2種類あることから、
どっちにしても、
ガウス表現の生成元となる行列は2つ必要でした。
それがMrとMtでしたね。
交換は三角形の3頂点の1つだけ動かさない裏返しだったのだから、BCの交換ではなく、
ABの交換を基本にしても全体としては同じS3に対応するガロア表現たちができるはずですよね。
ωのないAとωのあるBを交換するのはどうもなあ。。。と思うかもしれません。
しかし、図形としてみたら、A,B,Cは対等です。
A+B=C、B+C=A、C+A=Bも成り立ちます。
O∞以外の3点A,B,Cは有理点なのだから、この3点で和の関係が成り立つはずだからです。
だから、成分は気にせずにやってみよう。
Mr={{0,1},{1,1}}の
x(A)=B,x(B)=Aとすると、
Mx={{0,1},{1,0}}として、
geogebraでさっきとまった同じことをやってみよう。
課題:基本となる独立な生成元を変更したときのガロア表現がgeogebraでどうなるかをたしかめよう。
Mr={{0,1},{1,1}} #さっきと同じr:(1 2 3)
Mx={{0,1},{1,0}} #ここから下でtをxにする必要がある。#u:(1 2)
Mrx=>{{1,0},{1,1}} #rx(A)=A, rx(B)=Cから BC交換 t;(2 3)
Mxr=>{{1,1},{0,1}} #xr(A)=C, xr(B)=Bから、AC交換 v:(1 3)
Mxx=>{{1,0},{0,1}} #xx(A)=A, xx(B)=Bから、恒等変換 e
Mrr=>{{1,1},{1,2}}=>{{1,1},{1,0}} r*r:w(1 3 2)
成分2が出てくるのが1回なので意味がとりやすいですね。
ガロア表現は基本の生成元を決めると、ガロア群とピッタになり、
S3の元とガロア表現の行列も最終的には同一になることがわかります。
まあ、どこからボールをけり始めても、
3点の関係性が変わるわけではないので、
3点の関係性を表す行列は不変だということですね。
ただ、生成元が独立ならば、
どこから始めても全体としても、部分として同じ対応になる
ということで、
さらに「ガロア表現が気楽に扱える」ようになりましたね。
ガロア表現:基本となる行列を変えてみる
3.ガロア表現がアーベル的になるとき
ここまではガロア表現を具体的にどうなるかを見てきた。
すこし、鳥瞰して振り返りをしてみよう。
最初の基本設定ではMtr≠Mrtだった。次の設定ではMrx≠Mxrだった。
ガロア表現はガロア群の鏡だ。
ガロア表現が非アーベルになるということは、ガロア群が非アーベルになるということと同値だね。
ということは、数でみた拡大Q(ω, s )/Qも、図形でみたQ(E[2])/Qも非アーベル拡大だということになるね。
もちろん、「ガロア群」から「ガロア表現」への写像
ρn: Gal(K/Q)→GL2(Zn)
の結果となる行列も非アーベルとなる。
まあ、行列がアーベル的になることの方が珍しいので、驚くことはない。
逆に、ガロア表現を調べるとアーベル的になるから、もとのガロア群がアーベル的だとわかる例はないでしょうか。
<アーベル拡大になるときのガロア表現>
さっきの拡大はQ(ω,s)/Qという3次方程式がらみの拡大だった。
こんどはn次方程式にからむ拡大をみてみよう。
それは、1の原始n乗根ζnのエクステによる、ガロア拡大Q(ζn)/Qを調べてみよう。
x^n=1の共役となる元の入ったコップXがあり、それをかきまぜるガロア群の要素ρでかきまぜます。
どの要素ρでまぜても、ρ(ζn)=ζ^a_ρとなるa_ρが1以上n未満で決まるでしょう。
これって置換ρからn未満の自然数Zn整数a_ρへの対応を考えることになるね。
つまり、写像ρからa_ρへの写像Gal(Q(ζn)/Q)→Znを考えることだ。
さて、要素ρとして、別の2つr,t,eから
rt(ζn)=r(t(ζn))で、e(ζn)=ζn
この2つから、
Znでの整数の等式
a_rt=a_r a_t,
a_e=1
が言えるでしょう。
Znで逆元もてるためにはnと互いに素であることが必要です。
さらに、Znは言うまでもなく、整数のかけ算の商群ですから、交換法則がなりたちます。
ただし、このままでは、積は決まっても逆元が1意的に存在する補償はない。
そこで、Znを互いに素な数に限定したアーベル群(Zn)×に像を限定しよう。
つまり、ρからa_ρへの写像Gal(Q(ζn)/Q)→(Zn)×
にするのです。
この結果がアーベル群なので、Gal(Q(ζn)/Q)もアーベル群だと言えますね。
写像の結果は行列ではありませんでしたが、既知の構造を使って鏡として映し出すという発想としては
ガロア表現そのものでした。
ガロア表現という発想によって、
ガロア群には非アーベル的で2次元多様体(楕円曲線のn等分)の世界の他に
円分体というアーベル的な1次元多様体(円のn等分)の世界があること
もわかったね。
まあ、(Zn)×はGL1(Zn)と同型だと言ってしまうと、みな行列だったともいえなくもないですけどね。